京都映画盛り上げ隊!
♯12「東映太秦映画村・映画図書室 学芸員」原田麻衣さん

答えてくださった方東映太秦映画村・映画図書室 学芸員 原田麻衣さん

この映画図書室はどんな場所ですか?

映画に関する資料には「フィルム資料(フィルムなどの映像資料)」と「ノンフィルム資料(フィルム以外のあらゆる資料)」がありますが、ここ東映太秦映画村の映画図書室では「ノンフィルム資料」約20万点を扱っています。映画の台本やポスター、スチールなど、とりわけ紙に特化した資料が多く、そうした資料の収集、整理、保存、研究という4つの役割を担っています。事前予約制ですが映画村の入村料なしで誰でもお越しいただけます。


制作時期も配給会社も異なる『宮本武蔵』の映画のノンフィルム資料が揃う

このお仕事に就かれた経緯を教えてください

実は私の専門分野はフランソワ・トリュフォーというフランス人映画監督で、彼の映画について調べるためにフランスの「シネマテーク・フランセーズ」という映画アーカイブを頻繁に訪れていました。ここにはフィルムや脚本資料、スチール写真のネガ、ポジもありますし、衣裳や小道具など、映画に関わる膨大な数の資料が整理、保存、研究されています。さらに博物館と展覧会を行う広いスペース、図書館、そして映画館もあり、映画に関する一連のサイクルを体験できる施設になっています。私の研究にとっては欠かすことのできない大切な場所であり、日本にも同様の施設があったらいいなと思っていました。
そんな中、2020年に産官学連携プロジェクトとしてこの図書室が設置されたことを知り、フランス留学から帰国した私は、2021年1月から非常勤職員としてここで働かせていただくことになりました。

フランスと日本の映画アーカイブを比べて感じることはありますか?

例えば、シネマテークフランセーズでは子どもの年齢に合わせた映画の上映が行われています。同施設には映画人を育てるという基本理念があるため、映画の教育的観点も大切にされているわけです。そうした細やかな対応ができるのは、膨大なコレクションとノウハウがあるからであり、質の高い映画が上映されることでいい映画人が生まれる。そのサイクルは理想的だと考えています。
日本では芸術にかけられる予算があまり多くないと感じますが、映画に絞るとなおさらです。日本にも「国立映画アーカイブ」を筆頭に、「京都文化博物館」、「福岡市総合図書館映像資料課」、「松竹大谷図書館」、「早稲田演劇博物館」など、実は色々な所に素晴らしい映画アーカイブがあり、それぞれが一生懸命工夫をしながら映画資料を守っています。しかしながら、やはり予算がないとできないことも多いため、どのように予算を獲得していくのかは常々課題だと感じています。ちなみに、この図書室にもいずれ東映や映画村の資料が活用される場としての映画館が併設されたらいいな、と思っています。

ノンフィルム資料についてもう少し詳しく教えてください

例えば、台本にはさまざまな種類があり、私たちはそれらをまとめて「脚本資料」と呼んでいます。多くの場合、一番最初にできる脚本が「準備稿」、そこから「改訂稿」、「最終決定稿」、そして撮影用に作られる「撮影台本」などがあります。台本自体世の中に出回ることが少なく、仮に出回ったとしても「最終決定稿」や「撮影台本」が保管されることが多いですが、ここでは、一つの作品に対してより多くの種類の脚本を保存しようとしています。なので、映画図書室では基本的に、映画作りに関わった人が実際に使用した「一次資料」を積極的に受け入れています。また、寄贈の際は、できるだけ間引きなどはせず、必要ないと思ったようなものでもとにかく「丸ごと」持ってきていただけるようお願いしています。


実際に撮影で使われた準備稿、決定稿、撮影台本

資料の収集も大切ですが、同じくらい重要なのは「何があるのかを把握しておく」という整理の行程です。収集したらひとまずざっくりと保管しておき、必要になったら整理をするという方針のアーカイブもありますが、ここでは資料が入ってきたらすぐに細かく整理して記録しています。規模が小さいからこそできることですが、そうやっていつでも、誰でも活用できる状態にしていることが、この図書室の強みでもあります。


膨大な量の資料が活用できる状態で整理・保管されている

2024年5月~7月におもちゃ映画ミュージアム※で開催された展覧会「毛利清二の世界 映画とテレビドラマを彩る刺青展」のキュレーションを担当されたとお聞きしました

はい、この図書室に刺青の文化史を研究されている大学の先生が来られ、東映作品で刺青を描いていた絵師に話を聞いてみたいとおっしゃられたのがきっかけです。その刺青絵師が毛利清二さんで、1960年代以降の任俠映画全盛期を支えてきた職人の一人です。多くの人に馴染みがあるだろう「遠山の金さん」の「桜吹雪」もすべて毛利さんが描いていらっしゃいました。私も毛利さんへのインタビューに同席したのですが、その際に「仁義なき戦い」シリーズの菅原文太さんの鯉の刺青など、当時の下絵が膨大にあるということがわかりました。希少性やデザイン性の高さに、このままにしておくのはもったいない、たくさんの方に見ていただきたいと感じ、おもちゃ映画ミュージアムさんに協力いただき、展覧会を開催させていただくことになったんです。


展覧会開催当時のポスター

1970年代半ばまでは毛利さんのほかにも刺青絵師がそれぞれの撮影所にいらっしゃいました。皆さん役者と2足のわらじでされていたり、それ以外の役割も兼務したりしていたようです。毛利さんも刺青のシーンを撮る際には衣裳やライティングにも協力していたそうで、そうした当時の現場の様子を刺青絵師ならではの視点から捉えたお話は非常に興味深かったです。

現在は毛利さんの下絵を活用できる状態で保管するため、東映仁侠映画約230作品を見られる状態にあるものはすべて観たうえで、どの下絵がどの作品のものなのかを毛利さんにお聞きして特定し、それにまつわるエピソードもセットで残す、という地道な作業を続けています。また同時に、下絵が具体的にどの段階でどのように使用されたのかなど、刺青を描くプロセスや刺青絵師という職業そのものについても映画史的な観点から記録を残しています。


映画では一瞬しか見えない刺青でも、丁寧に描かれた下絵が存在する

京都映画賞に求めること、期待されることがあれば教えてください

ここで働くまでは、日本映画は好きでも撮影所や土地という単位で捉えて観たことはありませんでした。しかしいざ京都の撮影所に目を向けてみると、撮影はもちろん、衣裳や道具も揃っていますし、予算さえあればすべてが一か所で完結できることがわかります。特に時代劇は刀や着物などの種類も豊富ですが、毛利さんはじめ高い知識を備えた職人の方々が多くいらっしゃる。そうした事実が京都映画賞を通じて世間に知られることによって、京都で映画を撮ってみようという作り手が増え、観客も京都で作られた映画だから観てみようと思ってくれたらいいなと強く思います。

京都映画賞の会員にひと言メッセージをお願いします

ここには東映の資料だけでなく、東宝、日活、松竹など、さまざまな撮影所の資料があります。実際に使用された台本や直筆の生原稿など、世界にも誇れる第一級の資料が揃っているので、興味をお持ちの方は HPからご予約のうえ、 ぜひお越しください。

Information

・団体名:東映太秦映画村・映画図書室
・所在地:京都市右京区太秦東蜂岡町10
・TEL:075-864-7718
・E-mail:eigamura.tosyoshitu@gmail.com
・公式サイト https://www.toei-eigamura-library.com/

※おもちゃ映画ミュージアムは現在閉館中。新たな拠点への移転に向けてクラウドファンディングを実施されています。(~2/28 23:59まで)。
https://camp-fire.jp/projects/811613/view