京都映画盛り上げ隊!
♯14「京まちなか映画祭」(バンヒロシさん/井本 修さん)

答えてくださった方
京まちなか映画祭 実行委員長 バンヒロシさん(右)
京まちなか映画祭 実行委員 井本 修さん(左)

京まちなか映画祭が生まれたきっかけを教えてください。

井本さん 始まりは2002年、新京極商店街のイベントとしてスタートした「新京極映画祭」です。
当時の仕掛け人が、京まちなか映画祭のロゴにもなっている井上恭宏さん。彼は新京極商店街の理事長として、自分の地域のことだけ考えればいい立場なのに、「映画で京都のまちを面白くしたい」と本気で思っていた人でした。
最初は新京極にあった美松劇場、京極弥生座(新京極シネラリーベ)などを会場に、約10年続きました。新京極映画祭は名前には“映画祭”と謳っていましたが、賞があるわけでもなく、「自分たちが観たい作品を、お客さんと一緒に大きなスクリーンで観る」場。肩ひじ張らない、でも熱量だけは高いイベントでした。
その流れを受けて2013年、「京まちなか映画祭」という名前が生まれます。音楽のサーキットイベントみたいに、「同じ日に、まちなかのいろんな場所で映画をかけたら面白いんちゃうか」と井上さんが言い出したのがきっかけです。飲み屋さん、ライブハウス、ダーツバー…京都の“まちなか”にあるいろんな場所が会場になりました。


京まちなか映画祭のロゴ。発起人の井上さんが『ブルース・ブラザーズ』を観ている

お二人と映画祭との出会いは?

井本さん 僕は2007年、第6回の新京極映画祭から事業者として関わり始めました。映画祭の運営全般担当としてお付き合いするうちに、井上さんと一緒に映画祭をやるのが楽しくなってしまい、ついには会社を辞めてしまいました(笑)。
2015年頃には一度「全部仕切ってみろ」と任されて、まったくうまくいかなかったのですが、それも含めて学びでした。

バンさん 僕は、2004年くらいにお客さんとして新京極映画祭を観に行ったのが最初です。その年は、ゲストにクレイジーケンバンドの横山剣さんが招かれていて、僕のことをミュージシャンとして知ってくれていた彼が、客席にいた僕に声をかけてくれたんです。
それをきっかけに井上さんとも知り合って、以来“常連ゲスト”として呼んでもらうようになりました。でも、本格的に関わるようになったのは、井上さんが亡くなった後。「これは自分が継がなあかんな」と思って、委員長を引き受けました。

一度は映画祭の中止も考えられたとお聞きしました

井本さん 2016年末に井上さんが急逝して、「もう続けられない」と思っていました。そんな時、京都国際映画祭(2023年に終了)さんから声がかかったんです。同映画祭で『ブルース・ブラザーズ』とライブを組み合わせるなど、京まちなか映画祭ならではの上映を行い、多くの映画関係者から「映画祭を続けてほしい」とのお声をいただきました。正直プレッシャーもありましたが、これだけ必要とされている映画祭を終わらせるわけにはいかない、と覚悟を決めた瞬間でもありました。
ただ、新京極商店街の事業として始まった映画祭を、勝手に運営するわけにはいきません。そこで、商店街の方一人ひとりに会いに行き、「京まちなか映画祭という名前を引き継がせてほしい」とお願いしました。幸い、商店街の皆さんには快く背中を押していただき、京まちなか映画祭実行委員会として再度走りだすことができました。(その後2023年にNPO法人化)。

これまでで印象に残っているエピソードがあれば教えてください

井本さん 井上さんがよく言っていたのは、「金はないけど“縁”はある」という言葉でした。実際、この映画祭は人の縁で続けてこられていると実感しています。

バンさん そうそう、たとえば、監督の林海象さんとのご縁。林監督の特集上映をしようという話になった時、「実家にフィルムが残っているかもしれない」とご本人がおっしゃるので、一緒に実家まで探しに行ったんです。そこで見つけた重たいフィルム缶を何巻も車に積んで、京都文化博物館のフィルムシアターに運んで、映るかどうかの確認から始めて…。大変でしたが、その最中に長らく失われたと思われていた『20世紀少年読本』のフィルムが見つかったんです。林監督も非常に喜ばれ、最終的には京都文化博物館のアーカイブとして収蔵されることも決まり、皆にとってうれしい結果となりました。

ほかにも最近印象的だったのは、今年のプログラムに入っている『二人日和』の上映を検討していた時のことです。こちらは2025年6月に亡くなられた京都在住の女優・藤村志保さんの追悼上映として準備を進めていました。そこで共演者の栗塚旭さんにトーク出演をお願いしようと思い立ってお電話したのですが、なぜか連絡がつかない。のちに栗塚さんも亡くなられていたと知らされて非常に驚きました。
残念ながらトークは幻に終わってしまいましたが、亡くなられたお二人に導かれているような気がして、あらためてこの作品を京まちなか映画祭で上映するべきだと決意を新たにしました。

ミュージシャンや作家とのつながりも、この映画祭の大きな特徴ですよね。

バンさん そうですね、音楽の現場で知り合った仲間の多くが映画祭に関わってくれています。
たとえば、 “バンヒロシ大学”というイベント。剣さん(クレイジーケンバンド)や音楽評論家の安田謙一さんなどをお迎えし、トークと音楽と映画をミックスしたような内容を企画、京まちなか映画祭のプレイベントとして開催しました。
ほかにもレコード店とコラボして、ドキュメンタリー映画『アザー・ミュージック』を上映、その場でレコードの販売やDJを行ったり、京都在住の作家・いしいしんじさんに作品紹介のコメントを寄せてもらったりしています。

井本さん 正直、ギャラは十分とはいえないので、参加してくださるゲストの方には感謝の気持ちしかありません。皆さん「お金はないけど、本気で観客を楽しませようとしている」と感じて応援してくださっているんだと思います。


誓願寺での上映会終了後のトークイベントの様子

作品選びやゲスト選定で、大事にしていることは何ですか?

井本さん 基本的に作品のセレクトは全部バンさんにお任せしています。
新京極映画祭の時代から一貫しているのは、「映画上映だけで終わりにしない」ということ。レンタルや配信で安く観られる作品に、それなりの金額を払って来てもらうわけですから、「プラスワン」が必要だよね、と過去に井上さんとも話していました。
その「プラスワン」として、必ず誰かゲストを呼ぶ、トークやライブを組み合わせる、上映前にミュージックビデオを流す…といった工夫を続けてきました。上映作品に関係するゲストに来てもらって、「その作品を一緒に語る時間」まで含めて映画体験にしたいと思っています。

バンさん 僕らは「映画を作る側」ではなく「映画を楽しむ側の素人集団」なので、難しいことを教えるというより、「こんな楽しみ方があるよ」、「こんな映画もあるよ」と提案する役割でありたいと思っています。
だから、上映後のトークで作品の裏話をしたり、その場で生演奏したり。会場を出た後、「あのシーンよかったね」、「あの曲、最高やったな」と会話が弾むきっかけになるような仕掛けを、毎回どこかに入れるようにしています。


侍タイムスリッパー上映後

2025年のプログラムのテーマと見どころを教えてください

バンさん 今年(2025年)は、とにかく「元気を復活させたい」という気持ちが強くて、テーマを「銀幕の青春リフレイン:日活スター達」としました。
小林旭さんの『ギターを持った渡り鳥』、石原裕次郎さんの『狂った果実』。加えて、日活スターの舟木一夫さん主演『学園広場』、浜田光夫さんと和泉雅子さんの『君は恋人』など、スクリーンで観ると胸がキュッとするような青春映画を選んでいます。
年配の方には懐かしんでもらいたいし、若い世代には「こんな映画が昔あったんや!」と驚いてほしい。フィルムの質感も含めて、映画の“新鮮さ”を感じてもらえたら嬉しいですね。
別枠の「特別上映」では、関西で頑張って映画を作っている人たちの作品や、先ほどお話しした藤村志保さん・栗塚旭さんの追悼上映『二人日和』など、新しい感覚と今だからこその意味を持つ作品を届けたいと思っています。

映画祭を通して、どんな「場」をつくりたいですか?

井本さん 僕はサッカーの仕事もしているんですが、スタジアムで試合を観ている時の一体感ってあるじゃないですか。スタジアムに行けない人も、スポーツバーで一緒に観ると盛り上がる。家で一人で配信を見るのとは全然違う楽しさがありますよね。
映画も、本来はそういうものだと思っています。
スマホやタブレットで一人で観ることもできるけれど、できればたくさんの人と同じスクリーンを見て、「今の何やったん?」、「あそこ良かったな」と、その場で感想を交わす。
そのあと、ご飯を食べに行ったり、飲み屋さんでまた話したり。結果的に、それが街の活性化や文化の継承にもつながればいいなと思っています。

バンさん 『侍タイムスリッパー』を大きなスクリーンでかけた時、「あ、僕らがやりたかったのはこれや」と強く感じたんです。会場全体が同じシーンで息を呑んだり、同じタイミングで笑ったりする。その共有体験が、人生のどこかでふっと支えになったらいいな、と。
僕らの映画祭は、誰かが一方的に教える場ではなく、「映画を楽しむ仲間が集まる場所」でありたいと思っています。


京都文化博物館で開催された『侍タイムスリッパー』の舞台挨拶

京都映画賞会員のみなさんへ、メッセージをお願いします。

バンさん 僕らは「映画を楽しむ側の素人集団」ですが、映画愛だけはあふれています。
少しでも、「ええ映画観たなあ」と感じていただけたら。明日からの生き方のヒントになるようなひとときを過ごしてもらえたら嬉しいです。
京都映画賞の作品も、京まちなか映画祭の作品も、いろんな映画を観て、たくさん語り合ってください。スクリーンの前に集まる人がいる限り、映画文化はなくならないと思っています。

井本さん 映像作品は、これからもどんどん生まれてきます。『カメラを止めるな!』や『侍タイムスリッパー』のように、インディーズから大きく羽ばたく作品もあれば、ひっそりと、でも確かに誰かの心に残る作品もある。
京都映画賞会員のみなさんには、ぜひ“いろんなサイズ”の映画を観ていただきたいです。そして、もし「これは多くの人に観てほしい」と思う作品があれば、京都のまちなかのどこかで一緒に上映できたら嬉しいです。

京まちなか映画祭とは

京都の中心市街地「京まちなか」を舞台に、映画と音楽とトークを組み合わせたプログラムを届ける、市民発の映画祭。
2002年に新京極商店街のイベント「新京極映画祭」として始まり、2013年から「京まちなか映画祭」としてまちなか全体へとフィールドを広げる。現在はNPO法人として、京都文化博物館フィルムシアターを中心に開催している。
●日程 令和7年12月12日(金曜日)〜12月14日(日曜日)
●公式HP  https://kyomachinaka.jp/