答えてくださった方東映株式会社 京都撮影所 衣裳部 古賀博隆さん
元々私はこの世界にスタントマンとして入りました。しかし母親に危険な仕事は止めてほしいと言われ、悩んでいた時にたまたま衣裳部に欠員が出たんです。これならいいだろうということで1984年に衣裳部に転向しましたが、入っていきなり関西テレビの記念番組「大奥」を担当することになり、非常に苦労しました。スキルもない、着付けもできない。毎日荷物運びばかりさせられる日々でしたが、当時は時代劇がテレビでもたくさん放映されていたので、とにかく忙しかったんです。嫌でも辞めたいという暇もなかったんですよね。それでだんだん着付けも覚えて、気が付けば時代も性別もさまざまな衣裳を扱えるようになっていました。
普段は主に東映京都撮影所で仕事をしていますが、大阪の舞台や東京の撮影所にも行くことがあります。衣裳は衣裳部屋に保管してあるものを使うことが多いですね。作品によっては新調することもありますが、新しいと自然なくたびれ感を出すのが難しいんです。
ある映画では3種類同じ着物を新調して、きれいな状態、やや汚れた状態、さらに汚れた状態を表現しました。また、俳優さんによっては昔の衣裳を保管しておいて、新たなシリーズが始まった時に同じものを使ったりもします。やっぱりファンの方は細部までよく見ていますからね。そういう人たちの期待を裏切らないような仕事をしたいと思っています。ストーリーの邪魔をせず、観る人に違和感を抱かせない衣裳が理想です。一方で時代劇の場合、悪代官は品のないギンギラギンといったわかりやすさも大事だと思っています。
今年大きな話題を呼んだ『SHOGUN 将軍』に出演している真田広之さんとは20代の頃からの知り合いです。2021年のある日、突然真田さんのマネージャーから連絡があり、カナダで真田さんの衣裳を担当してほしいと言われました。その後真田さんからも直接オファーをいただき、『SHOGUN 将軍』第1シーズンの撮影開始から数週間後に現地入りしたんです。現場では主に真田さんのフィッティングを担当していましたが、顔見知りの俳優さんがいらっしゃれば着付けを手伝っていました。
現場にはエキストラの方も何百人もいて、着付け担当の方も30人ほどいたのですが、現代の着物の着付けはできても戦国時代、桃山時代の着付けはうまくできないんですよね。帯がゆるゆるだったり、直垂という袖口の広い着物もうまく着せられなかったり。
海外では各役割の部署がはっきり分かれていて、ほかの部署に口出しすることは契約の関係もありご法度なのですが、私は真田さんから「気が付いたことはどんどんやってほしい」と言われていたので、エキストラの着付けも直しましたし、衣装デザイナーの方にアドバイスもしました。そうこうしているうちに、最初は「着物コーディネーター」という肩書でしたが、エンディングのテロップに記載された時には「着物スペシャリスト」という名前に変わっていました。
最近はあまりテレビで時代劇が放映されなくなってしまいました。私が衣裳を担当した『侍タイムスリッパー』が異例のヒットを記録したのは、実はこういう肩ひじ張らない時代劇を皆が求めていたのではないかと密かに思っています。
『侍タイムスリッパー』はある時「自主映画だけどやってくれないか」と上司に言われ、台本を読んでみたら確かに面白くて、ちょうど仕事も落ち着いていた時期だったので担当することになりました。いつも通り台本を読み込み、これという衣裳をひと通り揃えて安田監督に見せたら「もう揃っているんですか?」と驚かれました。
『SHOGUN 将軍』と『侍タイムスリッパー』は制作規模も内容も全く違うので、私は「ハリウッドからインディーズまでやってます」なんてふざけて言ったりもしますが、安田監督も真田さんも時代劇に対する熱量が高い。その熱い想いは共通していると感じます。
京都で撮影、といったらやっぱり時代劇がメインなので、京都映画賞を通してもっと時代劇にスポットが当たり、若い人にも興味を持って観てもらえたらと思っています。第3回京都映画賞の作品賞にノミネートされている『身代わり忠臣蔵』や『邪魚隊』も私が担当しているので、ぜひご覧ください。
・団体名:東映株式会社 京都撮影所
・所在地:〒616-8163京都市右京区太秦西蜂岡町9番地
・TEL:075-862-5003
・公式サイト http://studios.toei-kyoto.com/